まどりについて Planning

建築をつくる初期段階から、形をきめる上で中心要素の一つである平面。

平面図、まどりを描くときの手がかりとは…

場をつくる

明と暗

太陽の光がさんさんと入るような明るい空間がほしい一方、暗い場所やぼんやりとした光の空間があることで、光と影の表情ができます。

また暗い場所から明るい光がみえたり、明るい所から奥にある静かな一角がみえるような、場所ごとにいろいろな性格をもつ空間をつくります。

吹き抜けのある明るい空間
建具の奥に昼下がりの光が広がる

大小の空間

広々と伸びやかな場所は、用途を限定しない大らかさがあります。こぢんまりとした小部屋は、ひとり落ち着く場所として私的な雰囲気があります。

空間の大きさに変化をつけることで、それぞれの場の性格ができます。

中庭をもつ小住宅。リビングダイニングは吹き抜けで二階とつながり、天井が高く開放的な空間。 反対に奥の寝室は二つの庭に面しつつ、天井高を抑えた最小限の広さの小部屋。
小規模な寝室。ベッドを中心に手の届く範囲に日常のものが置かれる。

流れをつくる

平面の中にはいろいろな「流れ」が生まれます。さまざまな要素ごとの自然な流れを描くことが、美しい平面につながると考えます。

風の通り道

建築の中の風の通り道を考えます。自然の風が抜けること、空気が淀むことなく流れることで、新鮮な空気を取り入れられるようにします。

家の中にいても、窓を開ければ外の空気や気配を感じられることが大切だと考えます。

十字平面の家。窓をあける場所により、いろいろな方向に風が抜ける。 床レベルが場所によって少しずつ変わるスキップフロアになっており、部屋間で上下しながら風の流れが生じる。

視線の抜け道

小さな空間でも「奥」をつくることで、その先に広がりを感じます。

「奥」の先には庭が開けていたり、小部屋につながっていたり、さらにその先に広間があったりと、視線が抜けることでその先の様子が垣間見え、変化に富んだ楽しさが生まれます。

奥に長い敷地の平面プラン。端にある個室から奥の寝室まで、視線が抜けて見通せる。 庭に面する部屋同士も、庭を挟むことで視線が庭へ空へと抜け、その先に広がりが生まれる。

人の動き

一日の生活の中で、私たちは家の中をぐるぐると様々な方向に動き回ります。

忙しく家事をこなすとき、出かける支度をしているとき、就寝前のひととき…日々の暮らしで無理なく家の中を動き回れるような、自然な人の動き、流れをつくります。

また動線が交わるときのプライバシーの配慮や、顔を合わせたいときに様子が分かるようにするといった、少し繊細な動きと動きの調整も、それと共に考えます。

キッチンから洗面脱衣、サービスヤードまでの動線を考慮したまどり。

1階、2階とも二方向にぐるっと回れる動線をとることで、状況に応じて自由に動けることが便利な上、目線にも変化が生まれる。

また顔を合わせたり合わせなかったりといった、コミュニケーションの配慮がしやすい。

たまりの場

流れについての話の中ですが、動きや流れ、抜けをつくるだけでは落ち着きがなく、居心地の悪い空間です。

日常の中で動き回る中だけでなく、じっと止まって落ち着くことも楽しみたい。

動きや流れが自然にとまる、たまりの場所をつくることも大切にしています。

たまりの場は、人のあつまる広間のような場所であったり、私的な閉じた部屋であることも。

中庭のまわりに居室を配置したまどり。 中庭周辺は視線や風が抜け、人の動きが生じる「動」の場所。 四隅の空間は人が集まる土間や、壁に囲われた寝室のような「たまりの場」

小さな家

少人数住居

一人暮らしや二人暮らしのための小住宅では、空間や身の回りの物への考え方をなるべく整理し、必要なものを厳選します。

小さな空間の中に大切な要素だけを凝縮することになり、そのために設計の上でもいろいろな工夫をこらします。

単身女性のための小さな住宅。基本的な日常生活が一階でできるよう、リビングダイニングとキッチン、水まわり、寝室を一階にまとめた。小さな家ながら明るくのびのび暮らせるよう、吹抜に視線の抜けをつくり空間に広がりをもたせる。階段上部に大きな窓をもうけ、穏やかな北の光をとり入れる。

出窓周辺はソファを備えたコーナーで、すっぽりと座り込める場所とした。出窓からは庭の木がみえ、そこから風も取り入れられる。

二階は畳敷きの広間で、予備のスペースとしていろいろな使い方をする。小さな家でもこのような余白の場所をつくっておくことで、来客時や住まい手の人数が増えた時にも対応しやすくなる。

床面積:1階27㎡、2階22㎡ 合計49㎡(15坪)

ワンルームの要素

学生の頃の一人暮らしの部屋は、小さなワンルームの脇にキッチン、お風呂とトイレが備えられた簡素なものでした。

部屋は小さく、収納が少ないため家具や荷物は多く持てませんでしたが、自分の好きなように空間をしつらえられ、いつでも模様替えのできるワンルームは無限の可能性をもつ小空間のようでした。

少人数で暮らす家ではこのようなシンプルで、生活に合わせていろいろに変えてゆける空間も快適だと思います。

自由にしつらえられる内部の広がり、シンプルで機能的な水まわり、一人でも掃除や家の管理が行き届くこと。ワンルームにはそういった魅力的な要素が詰まっています。

夫婦の住む小住宅。全体がひとつの空間としてつながりながら、場所ごとの性格をもつ。 二階にロフトとして畳の間と収納が設けてあり、予備の空間として来客時や人数が増えた時に対応できるようにしてある。

コンパクトな水まわり

小さな家では、浴室、洗面脱衣、トイレ、キッチンといった水まわり空間をコンパクトで機能的にまとめる必要があります。

洗面では明るい光の中で身支度や洗濯ができる十分なスペース、浴室ではゆったりと足を伸ばせる浴槽と掃除がしやすい素材、キッチンには料理のしやすい作業台と十分な収納…。

それらをコンパクトに、シンプルにまとめるために、特に小さな家ではいろいろな工夫が求められます。

トイレ、洗面、浴室の一連のボリュームと、キッチンを平面中央にまとめ、行き来の動線をシンプルにする。 水まわりの左右に大小の居室をつくり、場所の特徴分けをしている。
トイレと洗面室をまとめた例。一坪のスペースに、トイレ、洗面台、洗濯機を置く。建具は大きく引き分け、開け放てるようになっている。
浴室との扉も開け放しができる形のものにし、トイレか浴室を使っているとき以外は建具を開放しておき、広く使う。それによって湿気も逃がすことができ、他の部屋と同じ室温に保てる。

住居+α

長い建築の寿命の中で、ときに住むこと以外の用途で使われる状況が生じるかもしれません。

その時々に使い方を変えられる、器としての大らかさをもつ建築をつくりたいと思っています。

住居の転用

住宅では、住み手が変わり今までと違った使い方をすることや、住居以外の用途で使うことは、比較的よくあることだと思います。そういったときに、建築内部のしつらえを変更しやすくしておけば、柔軟に変化させながら建物を永く使うことができます。

住居の転用を想定する。構造躯体である柱や梁、耐力壁は残した上で、それ以外の壁や設備は取り外す。 建物を元の隔たりのない空間に戻せることで、必要なしつらえを新たにもうけることができる。 木造は元より、将来的な改修のしやすい工法、つくり方になっている。

併用住宅の場合

住居とそれ以外の用途を合わせ持つ併用住宅。

店舗や事務所、スタジオ、賃貸など、さまざまな使い方が想定できる併用住宅は、建物の大きさに余裕があれば将来的な変化を受け入れる大きな器として、いろいろな人に永く使われる建築になり得ます。

併用住宅 その一

1階にスタジオをもつ併用住宅。
鉄筋コンクリート造の計画であり、スタジオは様々な使い方で活用することを想定している。
スタジオと住居とは内部から直接の行き来ではなく、半外部の階段からか、それぞれのエントランスからアクセスする。
スタジオも住居部分と同様に、中庭とつながり陽の入る空間とした。

床面積:1階100㎡、2階135㎡

併用住宅 その二

2階建ての併用住宅。3m×6mの箱を4つ交互に組み合わせた形。
それぞれの部屋は中庭と外部に面する。場所により開く方向が違い、部屋ごとに違った性格をもつ。
建物の使い方が変わるときには、躯体はそのままで内部のしつらえと設備の変更を行う。
躯体の形を活かしながら使い方を変えてゆくことで、比較的小規模な改修で転用できる。

床面積:1階73㎡、2階70㎡

1階は中庭をもつ1フロアの住居であり、2階は二つの賃貸物件とする計画。

1階をカフェや食堂、パン屋、花屋などの小店舗として使い、2階は事務所やアトリエ、シェアオフィス、書庫といった働く空間として使う例。